donorsnet

« この論題で「総合」を創ろう | メイン | 3色ボールペンを使った授業 その1(新発明のマクラを読む) »

2006年04月10日

小学校でのディベート授業をどう導入するか 立論指導を中心に

[教室ディベート]

1 5つの指導ステップ
2「はじめてのディベート」論題設定のポイント
3 リンクマップから立論へ
4 リンクマップをもとに立論を書く
5 立論の型
6 肯定側立論の実際例

1 5つの指導ステップ

 私は、「小学校 はじめてのディベート授業 5つの指導ステップ」(学事出版刊)で教室ディベートの指導を5つに分けて提案した。
 5つの指導ステップとは、次の通りである。

(1) ディベートってなに・・・・・・・・1 時間(ステップ 1)
  (ディベート概論と論題作り。)

(2) 肯定側立論、否定側立論の書き方・・2 時間(ステップ 2)
  (リンクマップの書き方、きっかけ言葉を使って肯定側、否定側の原稿作成まで。)

(3) モデルディベート・・・・・・・・・3 時間(ステップ 3)
  (試合の中での1々の解説。尋問・反駁の仕方。フローシートの書き方。審判「判定の仕方」)

(4) ディベートの試合・・・・・・・・・4 時間(ステップ 4)
  (3人1グループで肯定側・否定側・審判に別れる。計3グループ。)

(5) モデルディベート・・・・・・・・・5 時間(ステップ 5)
  (メリット・デメリット方式における判定のやり方。戦術・メリットつぶし・デメリットつぶし。)

 これまで何度かディベートを指導して感じたのは、適切な論題設定と立論指導でディベートが良くもなれば失敗してしまうこともあるということである。
 そこで、この稿ではステップ2を中心に論題設定と立論指導を中心にすすめることにした。

2「はじめてのディベート」論題設定のポイント
 ディベートを教室に導入する際、まず子ども達に「ディベートを教える」ことが第1目標になることを忘れてはならない。初めから内容の濃いディベートをやろうとしてもいたずらに子ども達に負担をかけるだけで、かえってディベートに対していやな印象を与えてしまったらいけないのである。
 そこで、はじめてやるディベートということを前提に論題設定のポイントをあげておく。

 論題設定のポイント

  (1)児童に興味がある論題。
  (2)教師が全体の流れをある程度予想できる論題。
  (3)リサーチ性が少ない論題。
  (4)ディベータブルである論題。
  (5)その変革がクラス(学年)内で行うことが出来る論題

 (5)は特に大切な事で、ディベートをやると子ども達は、議論の結果どうなるかを期待してディベートをすすめる。
 もちろん、


  ディベートの試合の結果をもって意思決定は行わない。


 このことはしっかりと教えておく必要がある。しかし、その論題に対して子ども達全員がディベートを体験し、その事を前提に学級会等で多数決を取る分にはかまわないだろう。単なる話し合いではなくディベートでそのことを十分に考えた上での議決であるからである。
 以上の観点から、教室ディベート入門用の論題はどんなものが考えられるだろうか。政策論題を思いつくままに10個ほど考えてみた。

 入門期ディベート論題10選
 (1)○年○組は席替えを月に1度行うべし。
 (2)○年○組はクラスに○○係をつくるべし。
 (3)○年○組は○月にお楽しみ会を行うべし。
 (4)○年はお楽しみ会を学年で行うべし。
 (5)○年○組は席替えの席を子どもたちの自由にすべし。
 (6)○年○組の先生は宿題を廃止すべし。
 (7)○年○組は置き勉を許可すべし。
 (8)○年○組の先生は児童の名前を敬称をつけて呼ぶべし。
 (9)○年○組の児童は友だちの名前を「君」または「さん」をつけて呼ぶべし。
 (10)○年○組は忘れ物をした児童の名前を公表すべし。

 大まかに言って番号が上がる順に低学年から高学年向けを意識したがいかがであろうか。
 ディベートを教える時に初めクラスで論題作りをしてみんなで論題を決めるやり方ももちろんある。子どもの発想は様々であるから教師の思いもつかない論題が登場してくる場合も多々ある。
 そのような場合、すべて子どもの意見を尊重して、人気のある論題設定をしてしまうと、収拾がつかなくなってしまう場合も出て来よう。特に「校則の変革」にかかわる論題が出てくる可能性がある。
 ディベートの学習の発展として「ディベートで教える」場合はこうした論題も妥当であろうが、入門時には適さないであろう。今の目的は「ディベートを教える」なのである。したがって、論題設定にはある程度教師が関与した方がよいであろう。
 児童に論題作りをさせる場合のポイントは、次のように、論題の文型を提示するとよい。

 ○年○組は・・・を・・・にすべし。
 ○年○組の・・・は・・・を・・・にすべし。

3 リンクマップから立論へ
 論題が決まったら、リンクマップへと移ろう。
 リンクマップとは、プランから発生するメリット・デメリットの関係図である。
 これは、実際のリンクマップを見てもらって理解するのが1番いいだろう。(図は省略)
 論題は「いけち先生は子ども達に置き勉を許可すべし。」である。
 書き方は、次の通りである。

 1、白紙の紙を子どもたちに1枚配り、真ん中にメインプランを書かせる。
 2、そのメインプランから発生するメリット・デメリットを間隔をあけて書き込み、線で結んで行く。
 3、なぜ、そのようなメリット・デメリットが発生するか、途中経過を書き込み、線で結ぶ。(発生過程を考える。)
 4、メリット・デメリットにそのメリット・デメリットがなぜ重要なのかを考え線で結ぶ。

 はじめは教師と子どもたちといっしょになって書くのがいいだろう。これは、言葉で説明するのより、実際に書きながら教えていくのが1番である。

4 リンクマップをもとに立論を書く
 リンクマップさえ、出来上がればディベートの準備の半分は終わったと思ってよい。ここから、立論をおこすのはわけのないことである。
 書き方の注意点は次の2点である。

 1・ナンバリング
 2・ラベリング

 ナンバリングとは、自分たちの主張を数を示すことで、箇条書き形式と考えてよい。つまり、

 はじめに、○点述べます。
 第1に・・・。
 第2に・・・。

という、言い方である。
 また、ラベリングとは、個々の主張に対して、見出しを付けることである。たとえば、先のリンクマップを参考にラベリングすると、次のようになる。
 第1のメリットは「体に好影響になる」ということです。
「体に好影響になる」がラベルである。

5 立論の型
 はじめて、立論を子どもに書かせるときには、立論の文章形式を教えてあげた方がいい。
 ナンバリング・ラベリングを教え、では書きましょう、と言ってもなかなか子どもは書けないものである。そこで、文章の型を教師が示してあげて、それにあてはめて書いた方が効果的である。
 なお、この話し方の型は、「ディベート甲子園の話し方」に準じている。

 肯定側立論を行います。
 まず、定義を述べます。
 ○○とは、○○のことです。
 ○○とは、○○のことです。
 ・・・・・(必要なだけ同様に述べます。)

 次に、プランを○点にわたって述べます。
 第1に、〜。
 第2に、〜。
 ・・・・・(必要なだけ同様に述べます。)
 最後に、以上のプランから生じるメリットを○点述べます。

 第1のメリットは〜ということです。(ラベル)
 〜なので、プランからメリットが発生するといえます(プランからメリットが発生する過程を説明)。
 〜なので、このメリットは重要です。(メリットが重要であることの根拠となる価値の説明)。
 第2のメリットは〜ということです。(ラベル)
 〜なので、プランからメリットが発生するといえます(プランからメリットが発生する過程を説明)。
 〜なので、このメリットは重要です。(メリットが重要であることの根拠となる価値の説明)。
・・・・・(必要なだけ同様に述べます。)

 最後にリンクマップから書いた肯定側立論を書いておこう。

6 肯定側立論の実際例

 これから肯定側立論を行います。
 まず、定義を述べます。置き勉とは各教科に使う道具を学校に置いておくことを言います。
 次にプランを述べます。いけち先生は今日から置き勉を許可することにします。
 以上のプランから発生するメリットを2点述べます。
 第1のメリットは、「体に好影響になる」ということです。
 なぜそうなるかという過程を述べます。1 つ目はランドセルが軽くなると肩を痛めなくてよくなります。インタビューをした結果、2 〇人中1六人までもがランドセルが重くて肩を痛めた経験を持った人たちがいました。
 なぜこれが大切なのかというと、私たち児童は健康が大切です。置き勉が許可されると重いランドセルを持つ必要がなくなり、私たちの健康が保たれます。だからこのメリットは大切です。
 第2のメリットは、「忘れ物が減る」ということです。
 なぜそうなるのかというと、置き勉が許可されると授業中使う道具は学校に置いてあります。ということは、家にある学校で使う物は少なくてすみます。ということは、次の日持って行く物を探し出す範囲もせまくなります。ということは、忘れ物が減るということです。
 なぜこれが大切なのかというと、忘れ物がなくなれば授業中も学習に支障が出ず、効果的な学習ができます。だからこのメリットは大切です。
 以上で肯定側立論を終わります。

 この様に、「リンクマップ・話し方例」を使うことによって、立論が自然と出来上がるのである。
 『授業づくりネットワーク別冊「教室ディベートへの挑戦」第4集ディベート授業をどうつくるか(学事出版)1996年6月5日発行』より転載。
 なお、若干の語句を訂正した他、図版を省略した(2000.7.23いけち)。

コメント

10年近く前に書いた原稿ですが、記録のために2本整理して掲載しました。
今読み返してみても、まだ、色あせていない(かな?)

コメントする